中村屋が亡くなってしまった。。
享年57歳。歌舞伎役者としては働き盛りで、これから藝の円熟期を迎えるという歳である。
早すぎる、なんてもんじゃない。。死んではいけない歳だ。
9時のNHKのニュースで、勘九郎の口上が流れた。
勘九郎の舞台での声、勘三郎によく似ている。
彼が立派な役者に成長しているのがせめてもの慰めだと思う。
朝、このニュースを知って以来、一日、時折ぼんやりと中村屋の舞台を思い出していた。
遅れてきた歌舞伎ファンの私ゆえ、あまり多くの舞台は見ていないし、
平成中村座も高くて(。。)手が出ないことが多かった。しかし、それでも歌舞伎座の最終日の助六での通人など、いろいろと印象深い舞台が思い出された。
どの舞台でも華のある人だったと思う。
勘三郎というと、「茶目っ気」「意外性」などという言葉で語られたり(NHKのニュースもそうだった)、歌舞伎界に新風、なんてことばかりが言われるが、
私にとっては、二つのことが印象に残っている。
「情熱」と「上品」である。
前者はどなたにも簡単に了解されるだろうと思う。
私に特に強く印象に残っているのが、「刺青奇偶」。
中村屋と玉、ニザ様の共演という豪華版。
2008年の舞台。
夫婦の愛情を入魂の熱演で表現した舞台は、
思わず涙せざるを得なかった。
俺への意見だな、という台詞にこもった、あの情感は忘れることができない。
中村屋の上品さ。
実はこれに気がついたのは、ほんの最近である。
義太夫友達の一人が言った「中村屋ほど上品な役者はいない」という言葉にもあまりピンとこず、むしろ中村屋は時代物には向いていないとまで思っていた私である。
長谷川伸向きだな、と。
そんな私が、珍しく中村屋と吉右衛門が共演するというので、
「鈴ヶ森」を観たのが、今年の2月である。嗚呼ほんの10ヶ月ほど前!
この時、中村屋が演じた白井権八が、実に、実に素晴らしかった。
亡き芝翫が乗り移ったかのような立ち居振る舞いの気品。
なんということ!中村屋のこの藝の深さと品に気づいていなかったなんて!
私はただ、食い入るように観たのである。
そして播磨屋とのぶつかり合い。
それはもう歌舞伎ファンには至福の時で、私は思わずこの幕だけで、帰途につこうかと思ったくらいである。今日は、いやこれからしばらくはこれ以上の幕はあるまい、と思って。
とても、とても上品な役者。
私が観た最後の中村屋は、あの鈴ヶ森。
あの姿をまた、新しくなった歌舞伎座で観るのだろうと思っていたのに。
初期の食道癌だというから、すぐに戻ってきて、お祭りを踊るのだろうと思っていたのに。
いつか勘九郎がもっともっと大きな役者になった時に、
勘三郎のあの上品さを受け継いだ証をふっと見せてくれるだろうと思う。
そう信じて、その日を楽しみにしたいと思う。
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